広告制作に訪れるAIシフト|海外動向と日本のこれから
世界ではもう始まっている「AIクリエイティブ革命」
「バナーやLPはAIで自動生成できる」──そんな言葉を聞く機会が増えていませんか?
実際、海外の広告業界ではAIを制作に組み込む動きが当たり前になりつつあります。
- Goldman Sachs:クリエイティブ業務の約26%がAIに置き換わる可能性を予測
- 世界経済フォーラム(WEF):グラフィックデザインは縮小傾向、UX/UIは成長領域と報告
- WPPなど大手代理店:社内AIツールを導入し、大量のアイデア生成を効率化
AIは「デザイナーを脅かす存在」ではなく、発想を広げ、スピードを高めるパートナーとして位置付けられ始めています。
目次
海外事例:広告制作の現場はこう変わっている
1. ビジュアル生成の高速化
ニューヨークのBBDOでは、デザイナーが Midjourneyで数時間以内にGIF広告を生成しクライアントに提案。
従来は数日かかっていたビジュアル提案が、一晩で形になるようになりました。
👉 「提案スピード」自体が競争力になっています。
2. 大量パーソナライズの実現
TBWAでは、AIを使って数十万パターンの広告クリエイティブを生成する試みを進行中。
ターゲットごとに最適化されたビジュアルやコピーを一気に展開でき、柔軟性が飛躍的に向上しました。
3. AIモデルの起用
ファッションブランドMANGOは、**AIで生成したモデル(グラムボット)**を広告に起用。
撮影やモデル契約コストを抑えつつ、短期間で大量のビジュアル制作を実現しました。
4. 広告代理店のAI内製化
WPPなど大手広告代理店は、社内制作プラットフォームにAIを導入。
AIがアイデアやビジュアルを生成し、人間は戦略設計・選択・提案に集中するスタイルを定着させています。
👉 The Times – WPP and AI in creative
海外で進む「デザイナー役割シフト」の実態
Microsoft:デザイン責任者が語る「編集長的役割」
MicrosoftのVP Jon Friedman氏は、The Vergeのインタビューでこう語っています。
「以前は“ピクセルを動かす人”だったが、AI時代は“Editor-in-Chief(編集長)”の役割が求められる」
Autodesk:新職種「AI Strategist」の登場
Autodeskのレポートによれば、AI普及に伴い 「AI Strategist」「AI Coach」 といった新職種が急増。
デザイナーは「手を動かす人」から、AIを設計・統制する戦略家へ役割を拡張しています。
👉 Autodesk News – AI Jobs Report
WEF / Goldman Sachs:職種の未来予測
- WEFのFuture of Jobs Report:グラフィックデザインはAI代替リスクが高い
- Goldman Sachs:一方でUX/UIや戦略系の役割は成長分野として明言
👉 Design Week – Graphic design at risk from AI
日本の現状:AIシフトはなぜ慎重に進むのか?
1. 導入は進んでいるが「成果実感」が少ない
日本企業の約56%が生成AIを「すでに活用している」と回答。 しかし「期待を上回る成果を実感している」のはわずか25%に留まります。
2. 消費者レベルでも利用率が低い
生成AI利用率は、日本でわずか9.1%。
中国は56.3%、米国は46.3%と大きな差があります。 さらに国内では、ビジネスパーソンの約40%が「AIに不安を感じる」、**30%**が「使い道が分からない」と回答。
👉 出典:Cognizant – 日本における生成AIの採用状況
3. 規制と文化の壁
- 広告規制(薬機法・景品表示法):生成物をそのまま使えないリスク
- 言語特性:日本語のニュアンス生成は英語より弱い
- 文化的価値観:「人が作ることに価値がある」という固定観念
日本のデザイナーに求められる新しいスキルセット
海外では「制作はAI」「戦略は人間」という役割分担が定着しつつあります。
一方で、日本の現場はまだAIシフトに慎重で、特に品質担保や法規制の面で人間の判断が必須です。
だからこそ、これからの日本のデザイナーには 「AIを前提にした新しい武器」 が求められます。
1. プロンプト設計力
AIを「どう動かすか」は指示次第。
バナーやLPで「安心感」「即決感」「ラグジュアリーさ」など、曖昧な要望をAIに具体的に伝えるスキルが重要です。
- 良い例:「30代女性が安心して選べるスキンケア商品を想定し、信頼感を与えるファーストビューを3案」
- 悪い例:「安心感のあるデザインにして」
この差が、AIを“便利なおもちゃ”で終わらせるか、“成果につながるパートナー”にできるかの分かれ道です。
2. 判断軸を持つ力
AIが生成する案は膨大。でも「どれを選ぶか」で成果は大きく変わります。
- ユーザー視点:ターゲットに刺さるか?
- 目的視点:CVやブランド訴求に直結しているか?
- 論理視点:配置・トーン・導線に理由があるか?
この「3つの軸」で判断できるデザイナーは、AI時代に強い存在になります。
ただ作るだけでなく、「なぜこれを採用するのか」を言語化できることが、チームやクライアントからの信頼につながります。
3. 戦略的提案力
日本では規制や文化の壁もあり、AI生成をそのまま使えないケースが多いです。
だからこそ、「AIをどう安全に、戦略的に使うか」を提案できる人材が重宝されます。
例:
- 「AIで生成したバリエーションをテスト的に回し、勝ちパターンを抽出する」
- 「薬機法チェックが必要な部分は人が必ず監修するフローを設計する」
単なる“制作の速さ”ではなく、リスクを理解した上で成果を出す仕組みを作れる人が評価されます。
4. データと感性をつなぐ力
GAやサーチコンソールの数値をAIで整理し、改善案を出す。
その上で「どの表現がユーザー心理に刺さるか」を感性で磨く。
- 数字が示す「離脱ポイント」
- ユーザーが抱える「不安や期待」
- それを解消する「コピーやデザイン」
データ(論理)とデザイン(感性)を橋渡しできる人は、まさにこれからの広告制作における“戦略パートナー”です。
まとめ:日本ならではのAIシフトへ
- 海外は「制作をAI → 戦略を人間」に明確にシフト
- 日本は規制・文化の壁で慎重だが、品質担保 × 戦略性で独自の強みを出せる
- 必要なのは「プロンプト設計力/判断軸/戦略提案力/データと感性の統合」
AIは脅威ではなく、「作業を減らして判断に集中させてくれる相棒」です。
この変化を味方につけられるデザイナーこそが、これからの広告制作現場で最も信頼される存在になるでしょう。